2008年05月18日

五月の埋め合わせ


「解ってたはずだよな?キラ」

体中に痛みが走る。
近づく足音が誰の者でも、どうでもよく感じている。

「ざまぁないな…お前にはガッカリだよ」

痛みを忘れた胸が、針を刺すような痛みを受ける。
悪い、とは思うが、
それは彼の想いとは裏腹であることも私には解っていた。

ああ、解っていたとも。
好きで、こうした。…結果も、何もかも。

伏せった瞼に、掌がのせられる。
彼の、上司の者とは違う掌。

「約束通り。一ヶ月の謹慎だ、その後の処分は此方で請け負う
 お前の力を少し、奪っていくよ」

彼もシンドイのだろう。
低く報告して、儀式もすっとばして私の血肉を奪った。

「暫く、大人しくしていろ」

それが、お前と俺の生き残る術だ…
と言うかのように、瞳に印を刻まれた。

「くすくす」

「お姉ちゃん、私嫌いだわ、臭いもの」

「その目玉、少し、貰うわね?」

小さな少女の声と共に、痛烈な痛みが走った。


そう、五月はスケジュールで埋っていた。

それをすっ飛ばしても護りたかったものが、
果たして私にあったんだろうか。

ただ、必死に我武者羅に。

私は何を護りたかったんだろう。


下された指令は、最前線の一箇所に対する一掃を。


閉じられた一室で、
死に物狂いに剣を撃つ。

封じられ、充満している狂気に
只一人で殲滅を捧ぐ。

助っ人はなし。
死地をクリアせねば、その先はない―
いや、あるとすればモルモットの道筋か。

…誰が。成ってやるものか。

あそこは、死者の巣窟だ。
歯を食いしばり、倒れそうな足に杭を打つ。

まだ、倒れるわけにはいかない。

こんなところで…ああ、こんなところで。


尤も、此処を越えても無事は保障されてはいないが。


…戻りたい。

…戻れない。




もう、あの頃には戻れない。

死霊が。
遺体が。
踊り狂う戦地で、ただ屍の振る舞いを降らす。


あの頃とは、何だ。

兄といた頃か。

家族といた頃か。



それとも、もっと、ずっと昔か。
私が忘れている、何かか―


私は何を手に入れようとしているんだろうか。

掴めなかったぬくもりか

忘れている感情か



だが、どれも手に入らないならば

この手を伸ばすことすらも無意味で…



散り散りに
魑魅魍魎が溢れ出す。

ああ、ここが主悪の権化。

踏みより見える物は小箱。

禍々しいことだけが解るそれは、手に取るにあまりあるもの。
それは危険だと、心音と勘が告げる。

手にしては、ならない。

だが、ここを封じるには…一掃するには、
是に触れねばならない。

銀誓へ戻るには。












ぼろぼろの肢体を引き摺って
ただ終わらせた指令だけを掲げて、私は意識を失った。
posted by 瞳 at 23:54| ☔| Comment(0) | 腕eading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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