2008年04月16日

***・****

春の涼しい夜風が屋上に吹きぬける。

今宵はどんな夢を見るだろうか。

願わくば、どうか悪夢ではないことを祈ろう…

すがすがしい風が吹き抜ける
白亜の回廊の頂上に、私は座していた。

「セレス、またこんなところにいた…」

白い羽を羽ばたかせて少女はフワリと微笑む。
私も釣られて微笑んで、少女を手招きする。

「おいで」

招かれた少女を抱きながら、私は澄み渡った晴天を見下ろす。

「凄く綺麗なんだ」

「わー、本当だね♪
 地上ってこんなに開けていたかしら?」

少女は地を見下ろして嬉しそうに微笑みはしゃいでいる。

「…違うよ、人間の暮らしも随分美しいけれど
 そこじゃないんだ、ほら、見て?」

指差した先にあるものは、海であり、山であり、空。

「どれも凄く綺麗」

じぃっと見ていた少女は、何が?という風情で
その指先を一瞥してからこう言い放った。

「そういうこと言う、セレスが一番綺麗」

自分で言った言葉に少女は照れ笑いを浮かべて身を屈ませる。
たまらなくて、少女を抱しめた。

「わっ…」

驚いたのか、声をなくして少女は私へ身を任せた。

「そういう、可愛いこと言う君が僕は好きさ。」

あたたかくて、美しい。
真には君のような人の事を言うのだと、僕は君に知らされたから。
君と築く未来があるのなら
僕も歩いてみたいと思って居たけれど―…

ぎゅっと抱しめて、愛しい君へとキスを落とす。
少女も嬉しそうにキスを帰して。

「私ね、セレスならいいかなぁって思ったんだ」

途端、口を開いた。

天使は、その身を、運命を委ねる相手と結ばれると
羽一枚も残すことなく翼が捥げるという。

「駄目だよ」

考えるより口が先に出た。
シャッターが下りるように、心に溝を作ってしまう。
少女は悲しそうな顔をして、苦笑を浮かべる。

「セレスが気遣うことじゃないのに」

「駄目だよ、僕は君の未来を担うことができない」

君を、僕は幸せにはできない。

それは、口に出す必要もなく彼女も知っていることで。

「わかってる」

「でも、覚えていて」

「わたしは、貴方を幸せにすることができる」

…なんて、愚かな女の子だろう。

そう、私を君は確かに幸せにした。
君を抱いているその瞬間だけは、
確かに幸せに触れていることができたから。

でも、忘れないで。
僕は泡沫。

きっと、私を必要としている誰かがいる。
私が生まれた時から
それはずっと、私の鼓動に響いている。

そっと抱き寄せて、もう一度だけキスを交わした。

「君ほど愛しいヒトに会うことは二度とないかもしれないのにね、
 僕も大概、愚か者だな…」

鈍く殴られたような気持ちになる。

「君の事、愛しているけど…
 僕は君を選べない」

少女も解っていたから、少し俯いて。

「…でも、私は愛してる」

うん。よく解ってる。少女をまっすぐに見て頷いた。

「…有難う、またどこかで逢いましょう?
 きっと、いつか…何十年、何百年…いいえ、何千万年光年後でも」

共に見ていた空に、視線を移しかえる少女の姿が眩しくて。
ああ、呼んでいる声の方へと体を向ける。

「ああ、絶対に」

その時が来るならば、信じたい。
そして、再会の時が来るなら…

その時はお互いに、幸せな形で在りたいね。






< 数億光年彼方から >

休養中の腕が痛んで、目を覚ます。
熱に魘された昨今が嘘のように、今は消え貫通されたはずの腕も心なしか軽い。

「ぉ、熱引いたか?」
「―ああ、そのようだな」

傍らにいた相棒が喜びの声をあげる。
嬉しそうに、どこからか先輩が姿を見せる。

「気分が良さそうだな、よい夢でも見たのか?」
「女の夢か?」

相棒の馬鹿が口を挟む。
違う、とはいえないが…本質は違った…ような。
何というか清清しさだけが、此処に残っていた。

「…凄く、綺麗な夢を見た」
「へぇ、どんな?」
「綺麗な場所で…ある、少女との約束と
 …それから、どこかへ向かう夢」
「へぇ」
「ぬわんだ、やっぱ女じゃねーかw」

相棒が煩いから、そろそろ話題を変えたいが
先輩はどこか嬉しそうに、ニマニマとしている。
何というか、すごく気持ち悪い。

「何か良くない顕れですかね?…というより貴方が気持ち悪い」
「…っくく、失礼。
 そう、邪険にしないでくださいよ?」

先輩は一息おき顔を直してから繋げた。

「大丈夫、吉向です
 …それに、先ほどカイン司教との連絡が取れましたよ」

低く騒がないように抑えた歓喜に、この話は消されていった。

「彼女は忘れても、君はそうやって思い出す」

「同じ輪廻は繰り返されるのだよ」

誰も聞こえない小さな独り言を部屋の鼠だけが聞いていた。






……
………。

給水棟の隅、身動きの取れない場所で私は目を覚ます。
あと一睡ができる夜の畔。

夜空は煌いて、私に何かを告げようとしている。



あれは………誰の夢だ。
posted by 瞳 at 03:09| ☔| Comment(0) | 楼bject reading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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