2008年04月16日

宵月夜・朔

桜の花びらが舞い落ちる

深い眠りへと誘う


記憶は更に眠った方へと、足音を鳴らす…

暗闇に光る銀の礫が、嫌に幻想めいていた。

―殺される・・・

思っていても、私は身動きひとつ取る事ができない。

金縛りにあったように、私は動くことすら儘ならない。

たすけて―!



「…」

醜い子、早く殺してしまおう。
これ以上騒がれたら誰かに知られてしまう。
早くこの忌まわしい子を殺してしまおう。

本来、人に向けられるべきではない包丁を振り翳す。
と、鈍い音がした。

何か、異常に強い暴力が、振り翳した腕を遮った。
その流れに包丁が戸棚へ突き刺さる。

「痛っ…!」

たまらなく、打たれた掌を摩る。
赤く、赤くはれ上がっていた。

赤子には傷ひとつない。

まただ、また…また、ナニカをした。
…忌まわしい子…。

この子の周りには、奇怪なことが起こる。
だから、これ以上、恐ろしいことが起こる前に始末しなければ…。

私の中から出てきたなんて、
おぞましすぎて、吐き気がする。

また、忌々しい朝がやってくる。

「もう、いやよ…早くどうにかして」
「またか…」

荒れ果てたその部屋は、
赤子が生まれた当時のように綺麗な場所ではなくなってた。

夫は私をそっと抱しめる。
私は…そう、ずっと暖かな家庭を夢見てきた。
お父さんやお母さんのように、平凡で幸せな家庭を。

それなのに、それなのに…!
普通に、楽しく生きていきたかった、だけなのに。

夫に付き添われ、リビングに座り込む。

「話題をかえよう。それで、検査の方はどうだったんだ?」
「ええ、順調よ。もうすぐ生まれてくるわ。
 でも、不安なの。この子もあの子みたいに…じゃないかって」
「大丈夫、大丈夫だよ。」

訳もなく、夫の言葉は私を落ち着かせるためだけに吐かれる。
摩る、おなかの中の赤ちゃん…
きっと、もうこんな恐ろしい悪夢は二度とないって信じたい。

だって、間違ってる。
私が何をしたというの。

この子が生まれた時、きっと私も生まれ変わるの。
これからのことだけを考えていけるはずだから。
…だから、きっと、そう。
夫が言うように、大丈夫…

きっとまた、穏やかで幸せな生活に戻れるから。



はぁはぁはぁ…

「どうした?お前」

隣で、いつもの夫が、私の肩に触れる。

「真っ青だぞ?」

険しい表情で私を除き見る。
慌て微笑を浮かべて落ち着かせようと肩を宥める。

「大丈夫、ええ。大丈夫よ。」

声が震えていた。
驚いて、思わず笑いを漏らす。

「大丈夫、だって私には千尋がいるもの。」
「お前…」

そう、私にはもう中学生になる長女の千尋がいる。
だから、覚えていない悪夢なんかに怯えてなんていられない。

「しっかりしなくちゃね。」
「ああ、そうだな。…朔」

はと時計が、五時を知らせる。
ああ、もう夜が明ける。
きっと普段どおり、健やかでいる今日が来る。




……
………


胸糞悪い夢を見た。

…内容は覚えていない。
覚えていたとしても、話したくはない、夢。

きっと、先日…両親の話をしたからだ。

早く忘れてしまおう。


…子供のことをさっさと記憶から消した両親のことなど…。
posted by 瞳 at 01:58| ☔| Comment(0) | 楼bject reading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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