2008年04月06日

さくら、さくら。

淡い記憶が蘇る。

…忘れていた記憶。

……忘れてしまった記憶。

………封印した、記憶。


それは、少女にとって唐突な出来事だった。


少女はいつも通り公園にいた。

単なる大きすぎなく、小さすぎない公園だが
少女が暮らすには充分の環境であった為
少女は物心がつかない年端だったが
かろうじてここで、暮らしていた。

少女の許に遊びに来た
すっかり仲のよくなった少女が日暮れに別れを伝え
家族の下へ帰る姿を少女は見守っていた。

いつも、少女は思っていた。
この公園にありふれている光景に
酷い羨望と憎しみを抱いていた。

(うたちゃんには、カエルバショがあるからわらっていられるんだ)

幽霊のような白無垢をぎゅっと握って
少女は今日も心を潰す。

(でもうたちゃんは、わたしなんかといてくれるから)

大丈夫。大丈夫
一人でも大丈夫と言い聞かす。

いつも遊びに来る少女の笑顔は
いつしか少女に対してかけがえのないものになっていた。

自分の両親が
自分を解らなくなっても、大丈夫。
自分の両親が
自分を認めなくなっても、大丈夫。

私には、うたちゃんがいてくれる。
毎日、あそんでくれる友達ができたから、大丈夫。

耐えるように少女は日が暮れるそれまでの時間を待つ。
夜になれば、自分を全て隠してくれるからとても安心する。
誰も私を知らない。
私も誰にも解られない。
私が消えてくれるから、安心……

だから、それまでの間の夕暮れが
酷く億劫だった。

「よぉ」

きゅ、と口を噛み締めていた少女が名前を呼ばれて顔をあげる。
言うまでもなく、喜びを帯びた表情で現れた少年のもとへ走る。

「レイジおにぃさん…」

頭を撫でられて見上げる少女の表情はすぐに疑問符を浮かべた。

「きょうは…、、…どうしたの?」

指折り数えて来る日ではない人が来たことに少女はすぐに気づき
それに少年は微笑みかけた。

「今日は、お迎えにきたんだよ」

しゃがみこみ、少女の肩へ手をのせ抱き寄せる。
それは、少女が何度も夢に見た光景。
…ただ、抱しめてくれる相手は違ったけれど。
その抱擁が嬉しくて少女は目を細めてそれに応じる。
けれど強く少年は握ったままで、
その声は少女の耳にようやく届くほど小さな声で伝えられた。

「ようやく、伯父さんの承諾を得たよ。
 お父さんもお母さんも、君を僕達に任せてくれるって。
 大丈夫、もうこんな辛い思い、しなくていい。
 お父さんもお母さんも、いないところに連れて行ってあげる
 君を必要としてくれる人の所へ連れて行ってあげる」

少女が、表情が凍りつく。

それは、もう少女が苦しまなくていいということをさしていた。
家族にいつか刃をむくかもしれない恐怖と戦い続けなくていい。

四肢の硬直に少年は微笑んで言った。

「もう、ここにいなくていいんだ
 一緒に、行こう?」

そして何より…
幸せな家族たちをこれ以上、見続けなくていい…。


刺し伸ばされた掌を少女は断ることができなかった。



桜乱れる公園に、もう少女はいない。
たとえ少女を呼ぶ声が響いても
誰一人、その声に応じる姿を現すものはいなかった。
posted by 瞳 at 22:29| ☀| Comment(0) | 腕eading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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