2008年01月01日

芦屋・舞人

瞳は厭にはっきりとした夢を見た。

一夜というには長すぎる夢。
長すぎるが、あっという間に時間を越えるような夢。
予知夢よりも前世夢よりも過去夢よりも、奇妙な感覚に目を覚ます。

「…っ…」

ああ、また偏頭痛がする。
夢の後は、霊を討った後のような感覚が付き纏う。
無駄に、息苦しい。体が蝕まれるように縮こまる。

こういうときは、仕方がないから二度寝をする。
寝ている間は少なくとも、苦しくはない…

霞が屋根の低い地平に降り注ぎ視野を鈍らせているのに
何故か屋敷に印された星印だけは目に入った

「…」

この、屋敷には長年のライバルだった知徳がいる
噂に聞く晴明の屋敷だ
きっと、見たこともない呪法も祝詞もあることだろう
それさえあれば、少しでも多くの民を救うことができる…
警備は式に任せきりとまで聞く
捉えられるヘマさえしなければ、民を救うことができるのだ…

式は式に宛がい、私は屋敷へと侵入する
金があるだろうに人を雇わず草屋敷にしている気がわからん
苦悶に思っていると知徳が見えた

「おお、みちたる」
「…昔の名はやめなされ、知徳」
「そう、じゃったな道摩」
「して礼のものは」

副耳ばかりが目立つ知徳は、見た目通りに銭に目がない男だった
安倍の宮になぜ立てこもっているかは解らないが
必要とする呪法を印した書簡の強奪を
2,3の掛け合いに頷いてもらった
しかし、確認にと開いた巻物は消え失せる

「なんと下賤な」

声に、知徳は飛び上がった
振り向くと背後には妖しい輩がいた

「誰じゃ」
「…御前こそ誰じゃ」
「せ、晴明さまぁ!」

真っ青になった知徳が土下座をして許しを請う
ああ、これが晴明…確かに狐の子のような、妖気が見える
既に事はバレており、知徳も私も泳がされていたことを自認して
輩と向き合う

「くくく、おんしが安倍晴明か」
「ばれてしまっては仕方がない、いかにも私がそうだが」
「殺す気じゃな」
「いや…名を知りたいだけだが」
「私も陰陽師じゃよ?」

名を知るということはその者を意のままにするということ
そして晴明の力を聞く限り、名を知られた時点で終わる
冷や汗が頬を伝うと知徳が乾ききった口を開く

「っ…みちた」
「つまらぬ」

最後まで言う隙も与えずに知徳は冷たくなった
私ではない
晴明は終えた九字と式を飛ばし、
知徳を屋敷からあっという間に捨てた

「あの男、つまらぬ」
「…最初から見ておったな?!」
「やはり貴方が道摩」

ニタリと狐のように目を細め晴明は私を見据えた

「なぜ、おこる?おまえはあの男に殺されるやもしれなんだぞ?」
「なぜ、逃げぬ?先の一瞬だけが、たった一度の好機だったに?」
「…ほんのすこしだけ、おもしろい」

確かに、知徳は卜占で金を巻き上げたりなんだはしていたが
少なからず民へは配慮があった
何より、同郷の好として今の行為はあまりにも!

「力が全てじゃよ、道摩」
「知徳を救えなんだのも、道摩の罪じゃ」
「…では…貴様の力を使わぬ罪は、なんとっする!」

私は怒りに身を任せ晴明へ拳を振るいきる
すぐに四肢は式に固められたが…
晴明は拳を甘んじて引き受けた

「これは、貸しじゃな」

晴明は血唾を飛ばして静かに笑う

「私はおもしろいものが好きじゃ」
「つまらぬものは、いらぬ」
「御前は、弟子にしてやろう、道摩」

がつん、と鳩尾を突かれ意識が薄れる

「弟子になれば、禁呪を奪う機会も増えよう」
「弟子になれば、私を殺すことができるやもしれん」
「強くなれ、道摩」

「…つまらぬ未来を愉しい明日へ変えておくれ?」

完全に意識がきれる時に、私はもう二つ、自認した

晴明は知徳に興味などなかった
知徳が晴明に興味を持ったのだ…

知徳を捕らえ私をこの地へ引き釣った
民の苦しみすらわからぬ、力を有り余らせて…






……
………

また、目を覚ます。
リアルな感覚に腹部を撫でる。
痛みはなく、当然ながら痕もない。

「〜〜…z」

傍らに眠る同僚に胸を撫で下ろす。
この寒さに、日本ではないこの場所に。
それに、日本にあれほど背の低い土地は今はない。

少しの安堵に、再び眠りにつく…
今度こそ、きちんと眠れるようにと私は身を屈めながら。



<同刻、異端の地にて>


……
………

某は涙を拭う。
暗闇に閉ざされた狭い部屋。
あまりの寒さに身を振るわせて手の渕へ視線を伸ばす。
握っていたものは、盤か。成る程。
盤に触れていた手へグローブをはめ
盤へ感謝の気持ちを込めて触れる。

そうだ、泣いている場合ではない。
早く脱出せねばならん…この極寒の地より。

道摩が播磨の民であったように
某もまた播磨の民なのだから。
posted by 瞳 at 22:28| ☀| Comment(0) | 楼bject reading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。