2007年12月27日

再び、ロシアへ…―


…こんなにぐだぐだと悩む私は何なんだろうな…

ため息をついて稲宮家の天井を見る。
纏らない感情も、意見も、
周りには苛立ちしか与えないようだ。

「いつまでもいてくれて構わんし」

そう言ってくれた稲宮先輩の好意に甘えすぎているような気もする。



私はー…やっぱり、この地へ来るべきではなかったんではないか。

最近、酷くそう思う。

銀誓に来て、友達ができて
親しい人ができて
大事な人ができて

ずっと、ずっと一緒に居られたら…と思った。

ずっと、皆で馬鹿をやって楽しく平穏に過ごせたらと思った。


…思って、しまった。




荷造りを終えて、私は札へ手をかける。

この偽身符はー…以前テストに使用する際に
りらから貰った偽身符だ。

複数もらってきたのは内緒だ。
自分が符術であれば、大量に作ることもできるんだが…。

闇に、うっすらとその姿が形を捉える。



―…自分と瓜二つの偽身符を作り出す。

儀式であるように、指の皮を切り
私はそれぞれの私の首筋へ血文字を印す

『アキラ、彼の者達ノ守護ヲ命ズル』
『感知・運動機能ヲ最大限ニ』
『その他ノ機能ヲ最小限ニ引き下げル』

その髪には赤いリボンを結び
腕へチョーカーを括りつける

「しっかり、守ってくれ…必ず、傍にいて護れ」

私の記憶を継承した紙類達が散り散りになる。
26日から1週間…
もって、一週間。






稲宮家の近くに、黒いワゴンが止っている。
私が近づくと、傍にいた黒服の男が街頭の下に現れ
ニヤついた顔で告げる。


「…遅かったな、恋人に別れでも告げてきたか」

淡々とした口調で上司である麗二が言い放つ。
彼の哀しそうな表情が不意に脳裏をちらつき眉間に皺が寄る。

「…そんな者はおらん…お前が来るとは珍しいな」

いつもなら出迎えは、レイかカイが行うと思ったが…。
姿はここにはなかった。

「あいつらもちょっと、野暮用でな
 …今回は俺らだけの単独捜査となった」

麗二は、苛立ちを遮る様に煙草を吸っている

「…話が違うな」

「ああ、行き先はロシアでなくなった
 どうやら本部が割れたらしい」

「…どういうことだ?」

「…―話は中でしよう、
 言っておくが、今回は命の保障はできない」

「そんなことは当に解っている…―」

戸惑うこともない。
私の命など、とうに尽きている。

彼が私を生かしただけ、私は彼の想いを継いで生きるだけ…。

戦いに興じ戦いを愉しみ、
…戦火に巻き込まれる者を最小限へ押える為に。
彼のような死者を一切出させない為に。

近づく足音でふと我に帰る。

「何を、泣いている?」

目元に流れるそれを、麗二は手で乱暴に拭い取る。

「昔みたいに、泣き虫に戻ったか?」

何がおかしいのか、ケラケラと笑う。
昔ー…昔。
公園で一人、住んでいたあの頃のことだろうか。

「そういやあんとき、遊んだ奴…
 あいつも銀誓に来てるらしいなぁ…?
 口説き落とせなかった奴」

誰の話をしているのか。
上司は頭が弱いので時々話が飛ぶ。

「そんなことより、仕事の詳細を話せ」

扉を開けて、麗二がニヤける。

「ああ、良かった―…
 行きたくないって、ダダこねられるかと思ったぜ」

私も黒のワゴンへと足をかけ助手席へと座る。

「貴様と伯父さんに売られた恩を仇で返す真似は、しないさ」

麗二がエンジンをかけ、
アクセルを踏む。

「ああ、信じてるぜ…
 死ぬまで戦いの中に引きずり込ませてやるから安心しろ」

肩を叩かれて前を見る。

薄暗い世界に、フィルターがかかるように感じて
ようやく安心して息をする。

「うむ………戦場へ還ろう」

…血生臭い鉄の味が降る場所へ。
posted by 瞳 at 23:44| ☀| Comment(0) | 過去録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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