2007年09月15日

HappyBirthDay

※ ユーターンプリイズ手(パー) by背後

それは真っ赤な世界。



錆びた鉄の臭いがこの身を包む

闇に沈んだ世界で行われた狂喜

不快な声音はかろうじて笑い声を模る




―なぜ生きているのか




血塗られた両の手を直視できない

もはや亡骸となったを脳が否定する




―こんな結末は望んでいない



否定できない現実を受け止めるのに、彼女は若すぎた

ただ、ただ、
どうすればいいかわからずに、狂い笑う





―どうして、こんなことに

嘆いた言葉は、彼女の保護者である久遠麗二により発せられた

彼らがたどり着くには何もかもが遅すぎ、

少年少女の結末は、あまりにも早すぎた






世間から起きた事象をかき消すことは容易かった。
組織へのバックアップを頼み、
その場を離れるだけで全ては終わっていた。

厳重に捉えられた彼らは密室と変わらない車内で
それぞれに堅く口を噤んでいた。

拘束具に封じられた少女は彼らとは別の場所で、
亡骸は既に組織本部へと運ばれ、
連絡前に亡骸から剥ぎ取った指輪を
彼の義親でもある園部は握り声を殺して泣いていた。

…なかでも、麗二は頭を抱えていた。
彼女の養育権保持者である完への謝罪では済まされない業、
問題を起こし、咎を受けなければならない少女への対処、
組織からの降格は仕方ないとしても、
この結論、不始末に対しての責任のとり方を科せられるであろう。
何より、今隣にいる一人息子を亡くしてしまった園部氏へ
どう声をかければいいのか解らない。

長い、長い沈黙がこの場を支配した。
かつて支部までの道のりが
これほど長かったことがあっただろうか。

「…監督不行き届き、ですね」

押し殺したように枯れた声を出したのは、麗二ではなかった。
園部は謝罪するように、吶々と声を重ねた。

「…もしかしたら、彼女には見えるかもしれない、と思ってしまったのです」

罪の深さは同じだと麗二は声を届けたが、園部は首を左右へ振った。
気づいてしまったことが罪か。
起こしてしまったことが罪か。
何よりも負わなければならない業を園部は息子に被せてしまった。
…それこそが罪だと、
園部の表情を読み取れないまま麗二は耳を傾けていた。

あけてはならない蓋をあけてしまった…
パンドラのように、園部はカタカタと震えだした。
その視線は一転を見つめ、いや、見つめきれずにいた。

「私は最大の過ちを犯した、かもしれない
 きっと、彼女の此れからを押し曲げてしまった…最悪の形で」





―たった、数時間前。

「…見えるんですね」
「―はい、ここは何なんですか、先生…」
「…祠です」
「…そんな、気配じゃありません、ここは―」
「ええ、戦争によってここでたくさんの人が死にました」
「…ここは、…地獄です!」

数えで十になった少女を私は見る。
…まだ早すぎたか。
寝巻きの袖を口にあて凍えを耐えている姿が眉間に皺を寄らせる。

「まだ、戦場のほうが…救われます
 なぜこんな、…惨い、」
「状況が、見えるのかい?」
「…いいえ、見えません
 見たくなどないですし、でも、どうしてこんなに殺気に満ちているんですか」

少女の視線には、人じゃない何かの殺気が見えている。
人以上に、恐ろしい殺気を彼女は察し耐えている。
私は、彼女に期待した。

「かつて…ここは村の避難場所だった
 海に近いから、…わかるだろう?
 ある日、敵が攻めてきて村の人たちはここに隠れ住んだ」
「…敵が、せめてきた、だけじゃ、こうはならない」
「そうだよ、…敵陣は去らず、食料はつき始め、
 それどころか敵陣は次第に近づき隠しとおせなくなっていった…
 いよいよ擬人暗鬼になって、殺し合いが始まった」
「…先生、やめてください…」
「初めは老人から、まるで洗礼のように…屍は奥へと捨てられた
 次に赤子を持たぬ女から…食料が尽き、その身を加工された」
「…先生、お願いです、やめて…」
「最終的に、赤子を持つ女と、その子供が残った
 …普通なら、ここまでくれば子供が残る…はずだった、
 少なくとも、今までの間で亡くなったオトナ達はそのつもりだったろうさ」
「…」
「ところが、事実は違った
 母親達はこぞって敵陣の元へ逃げていった
 次の標的が自分達と気づいて、本末転倒なことを起こした

 敵陣が、女共をどうしたかは、知るところではなかったが…
 残された子供達は、この中で死ぬまで生きなければならなかった」
「…」
「幾重もの業に枷られて、生かされなかった子供もいた

 …生き残った子供は、僅か数人
 敵が去ってから他の町へと散っていったという」

少女はもう、ずっとしゃがみ込み、静まっていた。


憑依したはずだと、私は私の直感に頷いた。



彼女の瞳孔を探る為、その面をあげさせた。







「―誰だ?」

明らかに、少女の声色ではない、皺枯れた声がその口から紡がれる。
…成功だ。

「お前は、生き抜いた者か、それとも、召し上げられた供え物か」

「寿命など、真っ当したわ
 それでもこの血潮には勝てん、どんな平穏よりも
 妾は、戦を求むる…」

ニタリ、血の味を知る笑みが少女から毀れ、私は狂喜に捕らわれる。

「貴方なら、知っているはずだ
 この地に隠された大事な鍵を…見つけられるはずだ
 真っ赤な、小さな、石なんだよ…
 それがなければ、私はこの流派を越えることできない」

遥か昔、その薙刀の女傑を越える為の技を、
祖先が求めたその力の片鱗を、写した書物の鍵を手に入れられなければ。
…生きてきた意味など、ない。

「クク、いいだろうよ、残された時間は少ないが
 これも、ナニカの誼だ…それまでの間、泡沫に付き合ってやろうよ」




「この、祠なんだよ、それだけは…確かなんだ!
 ここになけりゃ、アンタも呼び込めるはずがないからな!」
















「………見えた」


ス、と視線と指先が指し示す壁は祠に祭られた社よりも鬼門に当る小さな、窪み。



「そこを掘れば、デルヨ、きっ…と…――」

カクン、と膝をついて少女は倒れた。
私は、駆け寄る…人外のそれに似た早さで鬼門へ、その窪みへ…

触れて
数秒ともたずに、できごとが起きた。


「ア゛アアアアアアアアアア゛ア゛アアアアアアアアアア゛ア゛アアアア」

少女の、今まで聴いたことのない波動のような悲鳴が祠を取り囲う。

まるで、電気ショックでも受けているかのように小さな四肢を波打たせた光景を
祠の中だというのにはっきり視界に収めていた。

見惚れたか、
あっけに取られたからか、気づきそびれた。

いつのまにか私は祠の外殻である洞窟の砦へと追い出されていた。









「おい、しっかりしろよ!!」

少年が少女の手を掴み、未だに痙攣をやめない体を困惑した表情で伺う。
彼は二人の後をつけ、彼女の異変に出てこざるを得なくなったのであった。
とはいえ、駆け寄った時には父の姿はここにはなく、
普段からここに近づくことを許されず危険だということを知っていた彼は
一人で彼女をここから引きずり出さなければならなかった。

「しっかりしろよ!起きなきゃおいてくぞ!」

言い知れぬ恐怖というものは、霊感がないものにも存在する。
彼はこの冷ややかで暗い洞窟から今にもナニカが飛び出してくるじゃないかと
その恐ろしさを彼女へ必死に訴えることで掻き消していた。

否に重いその体を引きずろうとして、ナニカが転がった。

冷ややかに汗を流しながら視線は自然と其方へ向いてしまう。


そこには、小さな指輪があった


思わず、その手が指輪を求め動く。


「これが…―、玉」

父が言っていた強さを得る為の、鍵。
これが、これを持っていれば、いつかは父を越えることもできる…。

ポウ――

仄かに、手にした指輪は赤みを帯びた。

…!?
その色味に、思わず手を離す。


ヒロッテハ、イケナイ――


それは、本能だった。
そして、彼は反射的に拾ってしまった。

これさえあれば、誰にも負けはしない

彼の中に潜む、たった一つの狂気だった。



ゆっくりと、少女は身体を起こした。
長い黒髪を揺らして、目前の人物に視線を送る。

「どうして、ここに…―」

一緒にいたはずの園部はおらず、
今はいないはずの彼がそこに背を向けて立っていた。
この場を考えた時にくる寒気を、少女は感じ先ほど来た道を遡ろうと彼へ声をかけた。

「ね、早く帰ろう?ここ、怖いんだ…」

ぐいぐいと服の裾を引っ張って、今ばかりは恥も恐怖には勝てないと
警告のように鳴り響く胸の鼓動を抑えることに必死だった。

…だが、彼はいっこうに動こうとしない。


否。
動いた。


すっかり、少女は油断したようだった。
本来、彼は絶対に彼女を傷つけることはしない。
しないはずの人物だったのに―。


「なん、で?」


出血は、夥しい。
斬りつけられた片腹を押さえ、
数歩の間合いを取り、よれよれと後退する。

「君が悪いんだよ、最後まで残っているから
 誰が殺さないと、殺されちゃう」

瞳孔の開いた少年は、今までに見たことのない恐怖に支配された表情を浮かべていた。
少女は、その姿に物怖じして血を滴らせた。

「だ、大丈夫だよっ
 私、は……殺したり、しない、…殺せるわけ、ない」

少女にとって少年は心から大事にしたいと思った家族の一人だった。
生まれたち数年も満たないうちに家族から見放された少女にとっての、初めて温もりをくれた唯一の味方。
彼女は直に、彼が彼ではないことを悟ったが…彼を宥めさせる術には至らない。

「駄目だよ、騙されない、
 秀雄はそうやっていつも最後まで残ってきていたんだから!」

少年の掌には、黒曜石でできた自然の刃が、少女の血で塗れていた。
少女はこれ以上の術を持たない。
必死に名前を呼んで、彼との交戦を避けている。

「ヒデオって誰?
 …違うよ、十でしょ?戻ってきてよ!」

必死の懇願も虚しく、重心を崩し転んだ矢先に、彼にその腕を掴まれる。
近くに、ヒュー、ヒュー、と渇いた喉の悲鳴が聞こえる。
ああ、彼は喋っていない。

「いたい、…やめて、戻してよ、十を返して!」
「すぐ、――終わらせるよ、」

隣にいる狂気が少女へ振りかぶり

今夜起きた、様々な異変が少女の中で思い起こされ



…そして、流れる血流に、凍る空気に、その皮膚の感覚に…







刃物が刺さる恐怖に

大きな声で、彼の名を呼んだ。





避ける皮膚に、血が濡れる。



…だが、見崩れしたのは、彼の方。




血塗れた石は転げ落ち、
少年は、少女に寄りかかるように顔を埋めた。

「…良かった、戻ってきたなら、…もど ろう?」










何が起きたのか、理解できない。


一方、少女の彼を支える両の掌は真っ赤に染まり、破顔した目から涙が溢れている。



「なん、で…」

少年の崩れていく身体にはもう、痛みを感じる神経が通っていなかった。
それだけが、彼への救いであり
元に戻ることのできない、最初で最期の警告でもあった。


「いいよ、もう…戻れた、から…

 やっぱり

 オレは弱かったんだ、ね」


「なんで?」


「…ごめんね、だって

 オレは皆から、守るけど

 オレからは、守れないと…思ったから」

だからこそ、彼は彼の一番信用の置ける人物から
絶対に自分の手では少女を殺すことができない札を自分へと施していた。
震える少女の声に、彼はいつものように笑っていた。
血反吐に咽ながら、これだけは言わなければならないと少年は自らに渇を入れる。

「ここから、出て、オレの姿は見ないで、外に出たら全部夢だって思えるから」

一息で言い切って、少年はずるずると、しゃがみ…いや、落ちた。

「ぁ…」
「見るな、いけ、」

少年の腕は少女には届かない。
涙で濡れた少女の瞳には、まだ彼の姿ははっきりとうつっていない。
少女は涙に戸惑いながら、
背を向け出口へと歩み始める。


掠れた視界へうつる少女の背がいつもに増して小さくて、

















その先に共にいけない悲しみと、










苦しみが












少年を攻め立てて、


押し殺した声が、少女の耳へ届いてしまった。















「…いかないで…」














少女と同じ境遇にあった少年の、
はじめての我儘だった。


駆け寄る少女の足音を僅かに聞きながら
洞窟の冷たい地面に横たわる少年は少女に抱きすくめられて、
たったひとつの約束を互いに交し合い

静かに息を引き取った。





少女が、ようやく少年の死を受け取った時
祠の奥より出し異形の者達との忍耐力を試された殺戮が繰り開かれた。

そして暫くした後、
園部へ呼ばれた麗二と共にその異状を目の辺りにするのだった。
少女の異常な状態に麗二は封じの霊符を飛ばした。








「こんな、ことになるとは」
「思いも寄らなかったんですか、私もです」

園部の顔は真っ青に染まり、麗二もまた同じだった。
10歳にもなれば、戦地に出向く鍛えられた兵士がいても珍しくはない。
だが、…これは戦争でもなければ、彼らが望んでしたことでは一切ない。

利己的な大人に振り回された単なる結果のひとひらでしかない。

「園部さん、あんたは随分と道を間違った、
 私も勿論、似たようなことになるだろう

 だが、…彼女にした罰は、あんたには背負ってほしくない」

致命傷になりかねない重傷に、消えることはないだろう心の傷を
永遠に持ち続ける。
それを負わしたきっかけは園部であろうとも、
少女の中にいる園部は先生であり尊敬しうる人物だったはずだ。

それを、こんな形で壊したくはない。

「きっかけは、あんただ
 だが、最初に話したとおり…責任は私が負う、

 彼女への示しも、私がつけるよ」

彼女へは既にばれているだろう。
爆符であろうと呪符であろうと、私の札は見慣れているはずだから。


殺されるかもしれないな―…


麗二にとっては寧ろ後のことを考えれば、そうであって欲しかった。
車輪は止まり、開かれた外界へは最初に会いたくない顔があった。

「…完サン、」
「痛いぞ」



















二人は、車両の奥へと再び吹き飛ばされた。

俯いた彼の姿は泣いているかとも思ったが、怒りに満ちていた。


「アイツも、わかっちゃいるさ」

10にもなれば、行動への責任を持たなきゃいけない。
のこのこと着いていった少女にも非はあると、園部を睨み言い放つ。


「まぁ、オレはお前が嫌いだが、

 アイツにゃ強くなってもらわにゃな…その為にもお前に預けたんだしな」

…ぐーで殴りつけながら言わないで下さい。

だが、彼はある程度の暴力でストレスを発散できているようだった。
こういうタイプが、陰険な態度で当たってくる時は、相当怖いものだ。

「そりゃ嫌いってことですか。」
「てめぇくらいのドエスなら、開き直ってドエムかそれ以上になってくれっだろう」


あんまりですね、と肩をすくめると今度はダブルドロップを食らった。
本部からの正式な降格と、寿命が縮まるようなペナルティは
その後の2年を必要とした。


彼女が立ち直るには、
もっともっと大きな時間が必要になるだろう。

掌に残る彼女の涙の感触が、少しだけ私の傷を触って塞いで行く。

あの頃の、公園で駆け寄ってきた、
私が手を伸ばせば恐れながらも手を伸ばす幼女はいない。
そうあった頃に彼女はもう戻れない。

最悪なスタートということは、
これ以上最悪な未来は先にないということだ…
戻れない道を歩ませていたことはずっと前から知っていた。
それが今、再び始まっただけ。

覚えのない始まりから、
自分で進まなければならない始まりへ―…

願わくば、彼女へ救済を。
血塗られた私達の手の届かないどこかへ。



いつか、彼女が本当に笑える日々に戻れるように。

穢す私達から彼女を奪ってくれる誰かを待つように
私は彼の死を悼んだ。


死を越えて、君は彼女に愛を与えたんだろう―…

幾つも年を重ねた我々にできないことを、彼は行った。
すまない気持ちと、未来を奪った事実。
彼の願望であれ、止めるべきだったのかもしれない。
…いや、止めるべきか迷い、止めなかったのかもしれない。
私のような骸にはさせたくなかった…か。

願う夢は人それぞれ、
私もいつかはそうできるんだろうか。
posted by 瞳 at 00:09| ☔| Comment(0) | 腕eading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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