2007年09月14日

テスト勉強中



ああ、憎らしい声が過る…
…なぜこんな勉強など、せねばならんのか。
理不尽な想いと相反し教本を捲る。
珈琲を飲みながら、ペンを取る。

 日本人のくせに、国語ができんのは問題だろう。
 学生なんですから、学業も淘汰せんとな。
 …今までを思えば悪い結果ではない…が、これは…酷い。

三者三様に一斉攻撃がくるとは思っていなかった。
鞄を手放した、油断した自分を呪う。

しかし、普段出回っている時間帯に…こうして
文字と格闘していると睡魔がやってくるもの、だ…




ぽむぽむと、頭を撫でられて顔を上げる
引き潮が煌いた砂浜で、淡い茶髪の少年は微笑を浮かべる

「機嫌を直してくれよ、瞳〜」

優しい声に気を許しそうになる

「イヤ…息吹兄はずるいよ
 私をどんどん、置いていくじゃないか」

さっきも、先生に習った棒術をすんなりと象ってしまった。
私は仕事の間にも何度も思い出し、会得したかったのに。

「だって、瞳もずっと頑張ってるから
 追いつかれたら、かっこ悪いじゃないか」

むぅ、と口を尖らせてみせる彼に、私は盛大に笑った。

「今だって追いついてないのに
 どうやって追い抜けるっていうんだよ!」

先生だって、息吹兄の剣術は光るものがあると言っていた。
息吹兄は、先生の養子で、親子なんだ。
それだけでも、きっとずっと憎いのに。
…私は預かっている子供というだけに、すぎないんだ。
思わず、涙がこぼれて、俯いて下を向く。

大きく押し寄せる波の音が、
少しずつ、時間がたっていたことを教えていた。
誰にも見せたくなかった、こんなボロボロの姿は。
親にだって見せたことはなかったのに。
鼻を啜りながら、熱い目頭を、腫れた目を擦りながら顔をあげると

彼は、まだ目の前にいた。

「ばか!何でいるんだよ、あっちいけ!」

無言で私を見ていた息吹兄は、さっきと同じように頭を撫でた。
振り払うように、首を振る。

「さわるな!ばか!くるな!ころすぞ!」

精一杯の、自分を見られたくない想いが咆哮し罵倒を散らす。
やつあたりだ、かっこわるい。
近づけさせたくなかった。
それでも、来る掌に、身を竦めた。

「ばかだなぁ…」

夕日は海に沈もうと最後に精一杯の光をこの地に浴びせていた。
息吹兄は、頭を撫でたまま隣へ座った。

「オレだって覚えるのに、何ヶ月、何年もかかってるんだよ
 瞳はまだ始めてまだ一年経ってないじゃないか

 なのに、もーこんな覚えて、
 ずるいはこっちのセリフなんだからなっ」

吐き捨てるように、息吹兄は苦笑いする。
うそだぁと言うよりも早く、重なった視線はその腕に遮断される。


 それに、…
 それにオレは置いてったりしないぞ

 オレだって、あるんだからな

 おまえにそんな想い、させやしないって」











ぱちり。
目を覚ます。



…いかん、眠っていたようだな。

随分――――――――――…懐かしい夢だった。
…久しぶりに、勉強をしたせいかもしれない。


あれから、4年、経つ。
滲みのできたページを破り燃やす。
綺麗な赤に目を細め、その燃えカスを灰皿の上で潰していく。

「――――…」

語る言葉もなく、宙を眺めてため息を飲み込む。

胸元の指輪を握り締め、誰にも聞かれない声で小さく呟いた。



――――息吹兄は、あの時微笑ってた……?





今はもう、思い出せない。


あの頃に引き返す術もない。
過去を聞くことすら叶わないのだから。
posted by 瞳 at 23:45| ☔| Comment(0) | 過去録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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