2008年08月18日

Calling


携帯の着信に気づいたのは昼のこと

早々、平穏でいられるはずもなかった


急ぎ、外へ向かうと
よく見た黒い車がお出迎えの様子だった


「―珍しいね、皆一斉に徴収されるとは―何事だね?」

いつの間にか隣に乗り込んだよく聞く声が、
上司へ疑問を投げかける
おそらく、夏の休暇を邪魔されて怒っているのだろう

「そうですよぉ〜、
 せめて、もう少し早く連絡くださったらよかったのにぃ〜もぉっ」

…大好きな兄が戻ってきてここに所属する理由もなくなったはずの彼女は、それでもなぜかここにいるままで
ただ苛立ちを隠せずに文句を投げつける

「まぁまぁ二人共…
 私は構いませんけどね〜何もすることありませんでしたし?」

笑顔の中にはどこか拗ねているような仕草の彼は、二人を宥めながらもことの真相を聞きたそうに耳を傾けている

上司は何も語らない
いや、語ろうとはしているが、語れずにいるのか
口を開いては閉じた

「…本部に行けば解るさ」

それだけを聞いて、道筋を急ぐ
ただ、簡単な話というわけでもなさそうだが…?
チャーター便に乗り込みながら、上司は私に耳うちをした

「ちょっと今上がもめててな…
 もしかしたら…―」

「誰か切られるってことですか?」

「―いや、それより厄介なことだ」

ふむ…、とりあえず頷いて其の先を見た。
そして思い出したように問いだしてみる。

「本部って…?今、警備厳しいんじゃないか?」

確か、小国に喧嘩を売られて開戦したら
某国との臨界態勢に亀裂が入って懸念されてるんじゃなかったか?

「ああ―それはそれであるから、
 ちょっと別所経由では、あるかな」

「そうか…数日ですむのか?」

正直、今は学園に在籍している身とはいえ
本部に危険が迫るなら、私達は緊急に退学することもあるのだ…
まぁ、その選択肢は各々に問われ決心を促されるものだとは思うが

「解らん…だが、幸いに其の程度で済むと思う」

上司がやけに焦っている
珍しく緊迫した自体なのだろう
例の騒動から友好関係でも崩れかかっているんだろうか

気にしながらも、ただ進む
機内では学園の話や戦争についてのあれこれで
盛り上がっているようだった

その間、ヘリからジェットを三つほど経由して進む
徐々に楽しみを帯びた会話も
直に手馴れただんまりへと変わって
皆寝起きる頃には本部へと無事に着くことが叶った



本部で徴収された数名の大半は良く知らぬ相手だった
上司よりさらに上の階級の者達は私たちが会うことは叶わない

ただ、ホールの縁の一室で
私達は長々と待たされていた

「―一体何を話しているのやら―」
「どうでもいいですぅ〜早く終わらせて帰りたいのですぅ」
「―…まぁまぁ、気にはなりますが
 食事でもしませんかー?」

彼の計らいによりクッキーを食べ始める二人
私はいかにも甘そうなそれを断り、席を立ち廊下へと進み出た

本来なら待機が望ましいだろうが、この部屋には手洗いがない
いつまで待つとも解らないので手洗いを訪ね向かう



しかし、ここはいつ来ても居心地が悪い

血に餓えた狼であろう狂者達が
血肉を貪りたそうな形相で、それでもスーツに身を纏い
大群に身を潜めているような
吉凶めいた緊張感が充満している

この高くやけに広い、綺麗な建物に
果たして私達以上の異常者達がどれほどまでに群れを成しているのか

想像する以上に難く気持ち悪い

なるべく隅を歩きながら、手洗いを兼ねて探索する

見たところ、自分と同じ年ほどの人たちは少ないように思う
もしくは、同じでも背丈がやはり高い
一見でわからないそれはとても威圧感があり、
なるべくことを早めに済ませた方がいい気持ちはしていた

肩をあわせないように身を潜めて僅かに警戒しながら進む
本部だというのに、やはり居心地の悪さは一級品そのものだった

「前見て歩かないと、危ないよ?」

ふいにかけられた日本語に思わず顔を向ける

端整な顔立ちのサングラスをかけた少年が、
何だか面白そうに此方を見ていた

「…大丈夫だ、少しトイレを探しているだけだから」

「ああ、それなら…三つ角を曲がって左だ
 解らないなら、ついていこうか」

「いやっ、そこまで言われれば充分だ
 …有難う…」

礼をつげ、早々と其方へ向かおうと体を建て直す

「…何で日本人がここに?―とは思わない?」

楽しげな表情で彼は私を見ていた
後ろには、明らかに彼のボディガードと思わしき者が2,3人見える

(―…厄介ごとはご免だ…)

思わず笑顔になる

「…私も貴方も―理由はさほど変わらないでしょう
 先を急ぎますから、それでは失礼します」

其の笑顔に返すように彼も微笑んだ

立ち去り際に、その口元は下がり酷く小さな声で呟いた

「貴方と私では違いすぎるが―」

耳に届いた言葉はそれまでで
振り向くと彼はそこから消えていた



ホテルの一室でベッドの上で横になる

(…一体何だったのだろう?)

年端は同じほどに見えた
いや、少し上かもしれないが…。

今回の呼び出しを含めても
特に音沙汰はなく、上司もあれから
困惑の色を浮かべてはいたが、大丈夫だと言ったきり
自室へと閉じこもってしまった

私たちには何も知らされないままに2日が過ぎようとしていた

本部に何の動きがあったのだろうか
笑顔の彼と零は共に、それなりに状況を探り出ていたが
大した情報はつかめないようだった

彼らがつかめないようであれば私には到底不能だろう
上司が話す頃合を待つしかない…だろうか

ナイフを研ぎ、符を作る鍛錬だけは欠かさずに
ただ暗黙の時を過ごす
ふいに、ノック音が響いた

「―キラ、いるか?」

上司の声だった
ようやく、話す決意でもできたのだろうか

「何か用か?」

ドアへ手を伸ばそうとすると、彼はそれを拒否した

「そのままでいい
 直に終わるから、ただ問いに答えてくれ」

責を切らすような声に、ドアの向こうを思う
ドアしか映らない視界を、漠然と見ていた



問いに応えてから
数分の間をおいて、上司は私達に上の決定事項を伝えた

本部が仮設として某国へ移動すること、
私達の任務は変わらず続行すること

友好とは何もなかったのかもしれない
あったかもしれないが…
私たちが徴収された意味には、一体何があったんだろうか

訳がわからないまま、
また違う航路である帰路を踏む



上司が言っていた言葉に一抹の不安を抱きながら



ああ、面白かった
彼女は想像以上に、俺とは違うらしい

「あんまり遊ばれると困ります」

結託悪いボディガード達は
俺に動かれると困るらしい

だが、俺の傍にいること自体が
俺にとっては不愉快でしかないんだが…

もしかしたら、お前らがいなければ
彼女とももう少し話ができたかもしれないのに

「煩いよ―
 俺は俺のしたいようにする…
 ここでも、あっちでも、どこでもな?」

スマイルで応じて、ふいに彼女を思う
長い髪だった
それから、顔についている傷が大理石のようで綺麗だった

「誰だろうな、あの傷をつけた奴は」

すぐに消えそうでもある、あの傷は―
いつまでついているんだろうか
できるだけ、次会うときまでには消えていて欲しいものだ

「―つけるなら、俺がつけたかったかな?
 でもそれじゃ、嫌われちゃうかなぁ…」

ボディガードは応じない
もっともらしい独り言だ
ああ、話し相手がほしい、こんな窮屈はもうウンザリだ

「ナチは元気かな?あっちで励んでいるだろうか」

不意に思い出す僕に、思わず含み笑いをする
あの可愛い鼬が使えるようになるまで、俺は動くことはないからだ

「早く成長してほしいな」

そしたら、俺もあっちに行ける
行って、彼女を近くで観察してみたい…かな?
うん、興味はまだつきることはなさそうだ
縁も、微塵もないわけではなさそうだしな

「違いすぎるが―だからこそ愉しめそうだ」

少なくとも、こんなつまらない篭城よりは格段に愉しめるだろう
posted by 瞳 at 01:09| ☔| Comment(0) | 楼bject reading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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