2008年06月22日

Doppelgänger


…ピリピリしている。

緊張感のありすぎる空気が、痛々しい。



「…起きるのか?」

「いや、そういうわけでもない」

「だからこそ、きな臭い…血生臭い…、ということか?」




僅かに。
鉄の匂いを帯びた町が、霧靄に隠れる日没。

Xaiと私は偵察に借り出されていた。
北の外れに面するこの地方には異常なほど人気はなく。
いや、無いといった方がいい。
無人に見える町に、硝煙の匂いだけが立ち篭っている。

私達はそこに呼ばれた。
正しくは、隣町との援護要請を受けての警戒を兼ねて。
…といえば聞こえはいいが、恐らくXaiは別件だろう。

タッグを組む以上、離れられんから
致し方なく、地の利があるXaiへ従う。
面白い物を見つけたように、
Xaiが私の襟を掴みとり壁へ押し付けた。

頭が割れるように痛いが、Xaiがニヤついている。
その先には、建物。
隅には、服装こそ違えど見慣れた少年兵を見た。
彼はまだ此方に気づかない…

「…」
「…」
目配せをするまでもない。
敵であれ味方であれ、障害はない方がいい。

Xaiは式を地に張り廻らせ
一縷の隙も無く仕留める。
少年は声を出す間もなく、私達は建物へと侵入する。

「…」

…違った。
少年ではない、少女だ。
視界の端に、転がった6歳ほどの…
この土地には相応しくない褐色の肌に、黒い髪

…。

足が止る。

似ても似つかない。
恐らく、喋れたとしても私とは語源が違う。
語り合うこともできない。

でも、気になってしまったから。

横たわった姿に足を戻し、見た限りでの確認を目視する。
大丈夫、Xaiは極力、殺しはしていないから。
彼女は生きている…眠っているだけだろう。

「…」

―AとBの国が争いあっている、だから君は牽制をして情報収集なさい
 危険を感じたら逃げるか、捕虜になりなさい
 間違っても、死んだ真似なんか…してはいけないよ
 ここの人たちは死体を吊るして威厳を保つことが常だからね―

「近づくんじゃない」

Xaiの声に振り向き止る。
…解ってる。
昔から見てきたことだから、よく知っている。

「…この子達は知らないんだよな…」

絶対的な正義を叩き込まれて、命の尊さを知らない。
隣人を大事にすることも、人の優しさに触れあい支えあうことも。
もっと言えば、今こうして味方以外が触れてしまえば
この子自身が死に到ることだって。

「―…キラはクルー経験者?」

「ああ。但し、内側の、な」

クルー…随分懐かしい言葉だ。
Xaiは別口だったらしい、口を閉ざして先へ向かおうと
その場から私を引き剥がした。

少女と、私が重なる―


―AとBの国が争いあっている、だから君は牽制をして情報収集なさい
 危険を感じたら逃げるか、捕虜になりなさい
 間違っても、死んだ真似なんか…してはいけないよ
 ここの人たちは死体を吊るして威厳を保つことが常だからね―

―サー、ほかの子が、あぶなくなったらどうすればいいんですか―

―自分の命の尊さを学びなさい
 君の代わりは誰もいないと知りなさい
 助けに行っては絶対に、いけませんよ
 誰かが死んだら死んだだけ、
 君たちは君たち自身の命を護りなさい
 それでも、助けたければ、悔しければ、
 この先のずっと未来の先まで生き残って、ただ強くなりなさい―


あの時も―あの時も―あの時も―

飛び出していたら、終った
誰に会うこともなく、この場に生き留まることもできなかった。

「いきて」

小さく、眠る少女に、ただそれだけを呟いて
私は再び暗躍する。





夕暮れの太陽光が、戒めの十字架を照らし

酷い反射を物陰にいた黒猫に浴びせる

猫は、光に気づかず
じゃれるようにして、ただ眠りに浸っていた


日陰には猫だけがいるわけではなかった

黒髪の少女が二人

やたら装丁のでかい本を傍らに眠っている


開かれた絵本には、兎と猫…

その世界は美しく
いつか見る世界に似ている

それでも、きっと

風が頁を捲るように
終わりは必ず来るのだろう

posted by 瞳 at 03:02| ☔| Comment(0) | 腕eading | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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